インタビュー
SOLIZEが考える
デジタルものづくりとは
2021.08.14
2003年 日系自動車メーカー入社。
オートバイの開発に16年間従事。オフロード競技専用車の車体設計責任者および開発責任者、また世界選手権や全米選手権、全日本選手権のモトクロスレース開発責任者を担当。
その後、コンサルティング会社にて、自動車メーカーのDX(デジタルトランスフォーメーション)やサイバーセキュリティ法規対応に携わる。
現在はSOLIZE株式会社 デジタルドリブンエンジニアリング事業部の事業部長として、製品設計・CAE解析・RPA・PLMなどに関する受託事業と、サイバーセキュリティサービス事業を統括している。
1999年 株式会社インクス(現SOLIZE株式会社)入社。
約10年間、金型事業や研究開発に携わり、自社ソリューションの進化に貢献後、コンサルタントとして製造領域の大型プロジェクトや営業責任者を担当。その後経営戦略室においてSOLIZEグループの成長戦略の企画、推進、実行に従事。
現在はSOLIZE株式会社執行役員 デジタルマニュファクチャリング担当として、日本における3Dプリンターの活用をさらに広げていくために、受託製造サービスや装置販売サービスに加え、積層造形(Additive Manufacturing)を活用したデジタルマニュファクチャリングサービスの開発を推進している。
SOLIZEは創立以来、製品開発のデザインエンジニアリング、3Dプリンティングエンジニアリング、変革エンジニアリングの3つの領域でデジタルエンジニアリング技術を磨き、お客さまのエンジニアリングパートナーとして成長してきた。
製品開発を支えるデジタルエンジニアリングおよび3Dプリンティングのパイオニアとして、SOLIZEを牽引する二人のエキスパートが、SOLIZEが考えるこれからのデジタルものづくりを語る。
― ものづくりに関わる企業として、SOLIZEが特長的である点をご紹介ください。
- 井上
SOLIZEは、1990年に日本で初めて3Dプリンターを導入し、これを軸にビジネスを広げてきました。
現在はおもに自動車の設計・解析に関わるエンジニアが1000名以上在籍し、自動運転用のシミュレーション開発や製造業を中心としたコンサルティングサービスも提供しています。
SOLIZEの特長は、考えたものを設計し、解析やシミュレーションを実施するという開発をデジタルで実現できることに加え、3Dプリンターを活用して他にはないスピードでものづくりをできることです。開発と製造を、デジタルデータを活用して行えることがSOLIZEの強みだと考えています。
- 田中
この数年間で各事業部が保有する技術の掛け合わせが活性化し、新しいサービスが生まれ始めています。設計から製造までさまざまなことを同時に行えるようになってきているので、さらに魅力のあるエンジニアリング会社になってきていると実感しています。
― 今後のデジタルものづくりにおいて、デジタルデータ×3Dプリンターのメリットを最大限に活用するために必要な要素についてお聞かせください。
- 田中
3Dプリンターを活用したAdditive Manufacturing(以下、AM)という工法は、従来工法と比較するとメリットとデメリットがそれぞれあるのですが、現時点ではAM活用の経験値と実績数が圧倒的に少ない状況です。部品でもジグでも何でもよいのですが、活用実績を増やし、新たな工法としての信頼性を獲得していくことが最も重要と考えています。さらにCAEやインフォマティックスなどのデジタル開発技術を駆使して、AMの有用性の検証サイクルを早く回せるようにしたいと考えています。
- 井上
たしかにデジタルものづくりにおいて工法の実績や信頼性は重要です。
実績が少なく信頼性の低い新たな工法を活用してデジタルものづくりを普及させる場合、その工法ならではの価値ある製品や活用方法など、先陣を切ってチャレンジして提案する必要があるのですが、それを実現させるのはなかなか困難です。- 田中
その状況を変えていくためにも、従来「製造する」というアプローチからAMが語られてきたことが多いと思いますが、新しい価値創造のためには「設計者やデザイナーがいかにAMを知るか」が重要であると考えます。材料、造形限界、生産技術要件を詳しく知ることで、設計視点からの新たな価値創造のアイデアが生まれてくるはずです。そのアイデアを自社のものづくりやプロダクトにフィットさせることにチャレンジし、AMノウハウの蓄積とナレッジの構築が必要となります。その次の段階として、ようやくAM適用の領域拡大ができてくるはずです。鋳造や金型などの工法が確立される時も通ってきた道筋だと思いますが、ノウハウは取り組まなければ蓄積されないので、まずは取り組み始めることが大切です。
- 井上
あっと驚くような工法は魔法のように感じることもありますが、それは製造機械により実現されていて、それを扱うための製造技術や生産技術要件、設計要件などのノウハウを理解している開発者や解析エンジニアが必要です。それは3Dプリンターも例外ではありません。私は前職で長く車体設計に携わりスキルを培ってきましたが、どの工法にも特有の発想や考え方があり、使いこなすにはそれぞれ特有の経験が必要でした。3Dプリンターを扱うにもこれまでの発想や考え方とは異なるスキルが必要です。製造機械をどのように活用するかという視点でAMを熟知したエンジニアが多くいるSOLIZEでは、3Dプリンターを活用したデジタルものづくりを促進し、AMを熟知したエンジニアを増やす取り組みも必要だと考えています。
- 田中
「Digital Native」という言葉がありますが、数年先はAMで設計製造することが当然の世界になっていて、「AM Native」な設計者がでてくるかもしれません。
- 井上
AM設計に精通していて非常に複雑な構造や形状を当たり前のように思いつく「AM Native」な設計者が増えていくと、この先、社会にあるさまざまなものの形が変わります。
― デジタルデータ×3Dプリンターによりもたらされる効果について教えてください。
- 田中
某テレビ番組のものづくり企画に参加した際、デジタルデータと3Dプリンターを活用し、他の工法では真似できない圧倒的な速さを開発に活かして成果を出すことができました。開発初期の段階から部品のバリエーションを多岐にわたり検証しながら開発を進められる、このスピード感はデジタル開発技術とAM技術の組み合わせでしか絶対にできないと企画を通じて改めて実感しました。
たしかにあの企画は開発のスピード勝負でした。デジタル開発ではさまざまな部品がパラメトリックに設計されており、パラメータの値を変えるだけで部品の3D形状が瞬時に変わります。いくつものバリエーションを短時間で設計変更でき、その都度バーチャルテストを並行で行いながら、テスト結果や生産技術要件をすぐに設計にフィードバックすることができます。この高速で繰り返し行われる設計作業は、部品を作らなくても質の高い部品の仕様決めが可能です。
実機テストに向けて部品を作ろうとした際、デジタル開発に3Dプリンターを活用できたことは心強かったです。夜に部品データを3Dプリンターに送信すれば、翌朝には部品が完成し、さまざまなバリエーションの実機テストを行い、部品の効果検証ができました。デジタル開発のデジタルデータをデジタルのまま情報伝達しものづくりに直結させることで、従来の工法よりもデジタルと実際のもの(部品)の間に発生していた工程やコミュニケーションをなくすことができることを実感できました。
スピードの他には、時間と場所の制約がないことも挙げられます。これはものづくりにおいて大きなメリットです。デジタル開発では部品の形状やレイアウトなどのデータを、世界中の共同開発者と最新の状態ですぐに共有できます。そのため、仕様のディスカッションを、場所を超えてライブで行うことができ、ディスカッションの内容をオンタイムで部品データに反映することも可能です。データ共有の視点でデジタル開発と3Dプリンターは相性がよいです。3Dプリンターには金型が必要ないため、たとえば日本で製作した部品データをアメリカに送ると、アメリカですぐに造形できてしまいます。部品や金型の輸送コストがなくなり、それを開発コストに充てることもでき、サプライチェーンの変革にも効果が期待できると考えています。
また、開発中にさまざまな理由で時間がなく部品の調達ができずに実験テストができない、失敗が許されない場面がよくあります。デジタル開発を活用して時間の制約がなくなれば、より多くのチャレンジが可能になります。こうした点もデジタル開発によりもたらされる効果だと考えています。
― SOLIZEが考えるこれからのデジタルものづくりは今後どのように価値を提供するのでしょうか?また、そのために今、取り組んでいることを教えてください。
- 田中
新しいAM技術をいち早く製品へ活用することに挑戦し、可能性を引き出し、造形技術を生み出し続け、お客さまにAMによる価値を提供し続けていきたいと考えます。そのために、設計・解析・AM技術の掛け合わせや、その効果を最大限発揮できる新しいエンジニアリングを提案する取り組みも推進していきます。また、異分野の専門性をもった企業や研究機関などとの共創を通じて価値を創造していきたいと考えています。目指す姿としては、日本だけでなく世界的に見てもAM価値創造企業として世の中に必要とされる会社だと思ってもらえるようになることです。
- 井上
SOLIZEが考えるこれからのデジタルものづくりの価値は、世の中にないものを具現化したいという想いをデジタルで形にすることの支援や、お客さまと共に価値創造するためのデジタル技術を提供することだと考えています。
現在は、これからのデジタルものづくりに必要な技術の構築に取り組んでいます。具体的には、技術開発のノウハウを持っているエンジニアを増やすため、長年開発現場でその能力を発揮してきたベテランエンジニアの開発ノウハウの蓄積や、デジタルで形にする技術の継承に取り組んでいます。また、RPAなどを活用したノンコア業務の省力化支援など、お客さまがデジタルものづくりの中でより創造性の高い業務に集中できるよう自動化システム構築技術の提供や、産官学と連携してものづくりのプロセス自体の価値を進化させる計画にも取り組んでいます。
私たちは技術を磨きながらものづくりに取り組むお客さまにデジタル開発を広めていき、共に新しいものを生み出していきたいと考えています。
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