SOLIZE株式会社

変革コンサルティング

品質関連損失コスト50%減へ、EPCプロポーザル業務のデジタル変革
~組織知循環型・プッシュ式のナレッジ活用AI~

エンジニアリング
東洋エンジニアリング株式会社

品質関連損失コスト50%減へ、EPCプロポーザル業務のデジタル変革

持続性のある地球社会に向け、EPCを強靭化する抜本変革

東洋エンジニアリング株式会社は「エンジニアリングで地球と社会のサステナビリティに貢献する」(https://www.toyo-eng.com/jp/ja/sustainability/) を使命とし、多様な課題解決とニーズの実現、そして環境保全を調和した独自技術を提供しています。日本を代表する総合エンジニアリング事業を展開する同社は、長年培ってきたEPC※1の強化と共に、カーボンニュートラル対策などの新たな社会ニーズに対し、従来の枠組みを超え新たな価値創造を目指した全社変革活動を推進しています。

同社は大方針として「新技術・事業開拓」と「EPC強靭化」の二重螺旋での進化を目指しています。「EPC強靭化」では、同社の肝である技術力やプロジェクトマネジメント力に一層の磨きをかけつつ、デジタル・データの力を掛け合わせることで「2025年までに生産性6倍(2019年度比)」を目標とした変革活動を実施しています。さらに、生産性向上により創出したリソースや資産を「新技術・事業開拓」にシフトし、相互のスパイラルアップを実現する戦略です。

「EPC強靭化」を追求する際、特に重要なテーマの一つは、業務の最上流工程でありお客さまとの要件定義段階である「プロポーザル業務の変革」です。受注産業のプロポーザル業務は、プラント全体を見据えた横断的で高度な技術検討が集積するため、EPCにおける品質・コスト・工期を左右する重要な業務です。プロポーザル段階での初期検討や顧客折衝による要件定義の品質は、その後の生産性はもちろんのこと、着工後の手戻りや不適合(不具合)の発生起因ともなり、「品質関連損失コスト」として同社の事業収益へ直接的な影響を与えます。加えて今、お客さまの要求は高度化・複雑化の傾向が顕著であり、難易度や重要性、判断に必要な情報量は増加し続けています。

そこで同社の変革推進チーム※2は、「EPC強靭化(≒劇的な事業生産性の向上)」を目的とした打ち手の1つとして「品質関連損失コスト50%削減」を目標に掲げ、EPCの源流であり特にクリティカルで難易度が高い、プロポーザル業務の変革を開始しました。

熟練者の高度な暗黙知を競争力とした、プロポーザル業務

同社のプロポーザル業務の担当者は、お客さまから提示された顧客要求ドキュメント類(以下、ITB文書※3)をインプットに、多数の技術部門の担当者と横断的に連携しながら内容を読み解き、顧客要求を頭の中で自社プラント・製品の標準仕様体系に変換しながら解釈を進めます。そのうえで、数週間程度でおおむねの要求や技術面でのリスクを分析、確認事項を明確にし、お客さまとの数回のディスカッションで真意をくみ取りながら、同社内での技術レビューや見積り検討を並行して実施。それらの要件の確認・精緻化・提案・交渉・調整を繰り返しながら、数ヶ月程度で必要な見積り書類と設計図書類をまとめてお客さまに提出します。

お客さまから提示されるITB文書は、英文で数千・数万ページ以上の分量があることも少なくなく、内容もプラント全体の多岐にわたります。人為的な見落としや解釈の違いによる受注後の仕様齟齬が発生した場合、「顧客満足度の低下」や「多大な品質関連損失コストの発生」につながり、事業リスクに直結します。そのため、すべてのEPC業務の出発点となるITB文書の読み込みは、技術理解の深い経験豊富な熟練者を中心とした試行錯誤と暗黙知によって、高度な業務水準を担保する業務となっていました。

Fig.1 熟練者の高度な暗黙知を競争力としたEPCプロポーザル業務、課題イメージ

暗黙知的な提案技術をAIで組織知化、ヒト中心の循環型活用

同社の変革推進チームは、「熟練者の暗黙的観点を、過去実績データと共に組織知として最大活用することで、ITB文書の読解を高効率に支援する仕組み」の構築を開始しました。プロポーザル業務の実態やメカニズム、課題と対策、どのような時に、どのような情報を、どのように活用すべきかなど、熟練者や担当者と徹底的な議論を重ね、高い目標達成に向けた業務としてのあるべき姿を描くことから着手しました。これにより、目指す業務の実現に向けて「業務プロセス整流化」「ナレッジ化」「標準化」などの対策に「最適なデジタル技術」を組み合わせるアプローチで、網羅的に課題に対処する本質的なデジタル変革を推進しました。

そのうえで、コアとなる自然言語処理AIソリューションとしてプロポーザル業務特化型のSpectA RFQ Guide View™ ※4を採用、過去案件に関わるITB文書・質疑やりとり・不具合や追加コストにつながった要件や事象など、EPCプロジェクトに関連する技術ドキュメント群の実績情報を学習させていきました。その際、事業のボリュームゾーンとなるプラント用途・様式・規模・生産量などをパターン分類し、優先的に実装することを考慮し、お客さま別のドキュメント記載特性による表現形式やニュアンス、言葉の揺らぎを踏まえた主要なお客さまの実装パターンを考慮するなど、AIでの学習効率と成果のスケールメリットを追求しました。あくまでも現場の業務を中心として、ヒトとAIが協調して高度な問題を解決し続ける仕組みを念頭に構築を進めました。

Fig.2 ITB文書読解における熟練者の勘所を、自然言語処理AIで再現するSpectAのイメージ

インド拠点から実践開始、現場に徹底して寄り添いやり抜く

同社の変革推進チームは、構築した仕組みをインド拠点での実践適用を皮切りにグローバル展開を進めています。業務変革は仕組みの構築だけでは成功しません。現場の業務の実態を正しく理解し、変革の意義・目的・目指す姿を自らの言葉で丁寧に翻訳しながら伝え、メンバーが自分ごととして取り組めるよう、現場に寄り添った合意形成と仕組みの改善を高速で繰り返しました。関連する業務プロセスや運用ルールの整備、教育、実務まで徹底的に現場に伴走することで、スピーディなスモールサクセスを一つひとつ着実に積み上げながら、新しい業務インフラとして実践稼働していきました。

その結果、プロポーザル業務におけるITB文書の読解について、「重要箇所の見落としや解釈違いなど、担当者によるバラつきや仕様齟齬の防止」「過去トラブルの再発防止」「付帯作業の削減」などに寄与する成果を実証しています。

また、EPCにクリティカルな要件を抜け漏れなく抽出したうえで、それらの要件の具体化を進めるアクションや試行錯誤の結果までも一貫したデータ管理をすることで、徹底した改善のPDCAを回し始めています。このように、構築した仕組みは「ヒトとデータの積極的な相互作用で組織知を循環進化させるスパイラルアップサイクル」として、生産性向上だけでなく、計画に対する正確性・再現性を向上するための基盤にもつながっています。

データ・レバレッジによる圧倒的な生産性向上と持続成長へ

本活動の結果、プロポーザル業務のITB文書読解における人為的な見落としや解釈の違いに起因する仕様齟齬を減少させることで要件定義の品質を向上し、「顧客満足度の向上」や「品質関連損失コスト50%削減」に資する成果へ段階的に寄与し始めています。

Fig.5 お客さまへの提供価値を最大化すると同時に事業経営のクリティカルな課題に対処するプロポーザル業務変革

加えて、個人の経験を組織知へと変換しながら日々活用することで、「経験年数や経験領域によらない高度な業務遂行」「人材成長や技術継承の加速」「創造的業務へのリソースシフト」など、蓄積したデータをてこに未来の競争力を強化し続ける相乗効果が広がりつつあります。

本成果を受け同社の変革推進チームは、ほかのプラント用途や技術領域、グローバル拠点にも同様の変革アプローチを展開することで、さらなる変革の推進と、変革意思・実行力を奏功しています。同社のEPC事業を高効率な業務へと変革することで、その多くのパートナーの仕事の効率化につなげ、産業全体の生産性向上につなげていきます。そして、EPCの強靭化を通じて、培った知見や技術、リソースを、お客さまへの提供価値と地球社会のサステナビリティにつなげていきます。このように、同社の変革推進チームのたゆまぬ活動は今後も続きます。

DXoT推進部
部⾧
瀬尾 範章 様
(本活動のプロジェクトオーナー)

「エンジニアリング業界は今、大きな変革のチャンスにあります。激しい事業環境変化の渦中にあり、いかに自らを柔軟に変革し続けられるかが問われています。安定期には踏み込みづらい領域まで踏み込める素地ができ始めており、お客さまからの新しい期待の面でも、デジタル技術のオポチュニティの面でも、それらが掛け合わさり絶好のタイミングを迎えています。こうした状況の中、『生産性6倍』への『EPC強靭化』において、『プロポーザル業務の変革』に着目した理由は2つあります。

1つ目は『EPCの源流であり、バイブルである』からです。自身がプロジェクト・エンジニアリング・マネージャーを務めたマレーシア・エチレン・プロジェクトにおいても、要求事項の解釈相違や抜け漏れに関する厳しい折衝を何度も重ねてきました。たとえば同プロジェクトでは、プロジェクト期間は52ヶ月にもおよび、プロジェクト終盤においての契約折衝ではプロジェクト開始前のプロポーザル内容に立ち戻って協議するなど、プロジェクト遂行における拠り所になります。特に海外は契約文化ですから、プロポーザル段階での書面類を前提に変更・調整は非常に困難となるケースが多いのです。当社は海外事業による成長戦略が大きなウエイトを占めていることもあり、EPCを源流から変革していくことは事業に直接的な効果を発揮する重要な対策です。

2つ目は『人とデジタルの協調が新しい価値を創出できる』からです。ITBは膨大な文量であるだけでなく、行間には言葉になっていないお客さまの想いがあふれています。熟練エンジニアは、その想いまでを読み解きながら、技術的な成立性や要件の担保はもちろん、プラントを引き渡した後の保守・運用までも見据えた最適な提案をしています。熟練暗黙知をデジタル技術で組織知化し、人とデータが協調してお客さまの想いを紐解きながらより付加価値のある提案に挑戦し続けることで、新しい技術開発や事業ポートフォリオ自体の変革につながる可能性があります。

プロポーザル業務の変革のような、熟練エンジニアの暗黙知が集積する業務をデジタル化するためには、SOLIZEの『暗黙知の形式知化×自然言語処理AIによるソリューション:SpectA』が構想に合致しました。業務特化型AIにより課題にフィットしたスモールスタート・サクセスで実践を進められており、今振り返っても改めて選定が適切だったな、と感じています。

本活動のような個別工程ごとの変革成果とそれをプロジェクト工程全体に組み込んだ統合変革により、プロポーザル・設計・施工まで全体での成果につながりつつあります。『生産性6倍』は目的ではなく、社員満足、顧客満足、株主満足を追求するための通過点であり『手段』です。人材が資本のすべてである当社において、社員の幸せの先にこそ当社の未来があります。定量的な目標と共に、こうした『変革への想い』を大切に丁寧に紡ぎながら、業界全体へも伝播していくような活動を推進していきたいと考えています」

※所属部署・役職は本活動推進時のものです

  • ※1 EPC:設計(Engineering)、調達(Procurement)、建設・試運転・引き渡し(Construction)の3つのフェーズからなる大型設備やプラントなどの据え付け・建設に関わる業務一式。
  • ※2 同社のDXoT (Digital Transformation of TOYO:https://www.toyo-eng.com/jp/ja/company/plan/dxot/)を推進する業務変革チーム。
  • ※3 Invitation To Bidの略。お客さまから提示される入札要請書や要求事項、関連する技術文書類一式。
  • ※4 SpectA RFQ Guide View(スぺクタ アールエフキュー ガイド ビュー):SpectAとは、「企業の競争力の源泉である人や組織の暗黙知」と「自然言語処理AI技術」を掛け合わせることで、熟練者が培ってきた経験やノウハウを組織知へと変換し、ダイナミックな知恵の活用を実現する、SOLIZEの製品・サービスの総称。RFQ Guide Viewは、引き合いや見積り業務の課題対策特化型のAIソリューション。

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