COLUMN技術コラム
3Dプリンターの中で最も歴史のある光造形方式の基礎知識
3Dプリンター 光造形
目次
- 光造形方式の歴史
- 光造形方式とは ~3Dプリンターの7つの造形方式~
- 光造形の出力種類の違い:SLA方式とDLP方式
3-1.SLA方式の特徴
3-2.DLP方式の特徴 - 光造形方式の材料(レジン)- 透明だけが光造形ではない -
- サポート材と後加工
- 光造形方式の3Dプリンターのメリット・デメリット
6-1.光造形方式のメリット
6-1-1.高い再現性・意匠性
6-1-2.高い寸法精度
6-1-3.造形スピードの速さ・高い生産性
6-1-4.豊富な樹脂材料・素材
6-2.光造形方式のデメリット
6-2-1.サポート材が必須
6-2-2.太陽光、紫外線に弱い - 光造形の用途、よく使われるシーン
- 光造形の最新技術
- 光造形の可能性 ~試作から最終製品、製造ラインへ~
- よくある質問
3Dプリンターの基礎知識をわかりやすく解説
初めて3Dプリンターを学ぶ方や、3Dプリンターを活用してみたいと考える方におすすめの教材です。3Dプリンターとはどのようなものか、他工法と比較するとどう違うのか、代表的な3Dプリンターの造形方式やそれぞれのメリット・デメリットなどを説明します。
光造形方式の歴史
光造形方式は3Dプリンターの中で最も歴史のある方式で、原理的な技術は1980年に小玉 秀男氏が発明したと言われています。しかし当時、小玉 秀男氏の申請は特許の成立には至っていなかったため、1984年にCharles (Chuck) W. Hull氏が開発、米国特許出願し、1986年にCharles (Chuck) W. Hull氏が、アメリカのサウスカロライナ州ロックヒルを拠点とする3D Systems社を設立し、世界で初めて光造形を製品化しました。1990年にはSOLIZE株式会社の前身である株式会社インクスがサービスビューローとして日本で最初に光造形機を導入し、受託製造サービスを開始しました。2006年に特許が失効してからは3D Systems社のみならず多くのメーカーで開発・生産され、今もなお進化を遂げています。
光造形方式とは ~3Dプリンターの7つの造形方式~
3Dプリンターには光造形方式や粉末焼結方式などさまざまな造形方式がありますが、ASTM国際会議では以下の7種類に分類されています。
- 液槽光重合/VPP(Vat Photopolymerization)
一般的に光造形方式と呼ばれ、SLAやDLP方式がこの分類に含まれます。 - 材料押出法/MEX(Material Extrusion)
一般的に熱溶解積層方式とも呼ばれ、FDMもこの分類に含まれます。 - 粉末床溶融結合法/PBF(Power Bed Fusion)
一般的に粉末造形や粉末焼結とも呼ばれ、SLS、SLM、MJFもこの分類に含まれます。 - 材料噴射法/MJT(Material Jetting)
インクジェット方式もこの分類に含まれます。 - 結合剤噴射/BJT(Binder Jetting)
- 指向性エネルギー堆積/DED(Direct Energy Deposition)
- シート積層/SHL(Sheet Lamination)
一般的に光造形方式と呼ばれるVPP方式は、タンクに貯めた液体状のレジン(光硬化性樹脂)に紫外線を照射し、樹脂を固めることで造形品を形成します。他の造形方法との大きな違いは、この樹脂材料が液体状であることから硬化させたあとの表面をなめらかに仕上げることができ、また透明のパーツを作れることが最大の特長です。身近なところでは液状のレジンをUVで固めるという点で、ジェルネイルも光造形の一種と言っても過言ではありません。
光造形の出力種類の違い:SLA方式とDLP方式
光造形方式には、一筆書きのレーザーでレジンを照射するSLA方式と、プロジェクターを使用して面でUV照射をする吊り下げ式のDLP方式があります。同じ光造形方式であることに変わりはありませんがそれぞれに特徴があります。
SLA方式の特徴
SLA方式(Stereo Lithography Apparatus)は、UVレーザーが一筆書きで液状の樹脂を造形エリア内で塗りつぶし、一層ずつ樹脂を硬化させて積層する造形方式です。液体樹脂をレーザーで固めるため微細再現が得意で、滑らかな表面の再現が可能です。造形物を支える台(プラットホーム)が液状レジンの入った容器の中を少しづつ下りて造形物を形成していくため、大型のものでも一体で作れる点がSLA方式の利点です。
一方でその造形機の構造上、多くの樹脂を用意しておく必要があり、UV照射で硬化するレジンのため、長期間保管することで樹脂が劣化し物性が変化してしまう難点があります。また、一筆書きでレーザーを照射していくため一層の造形面積が大きいと塗りつぶすのに時間がかかり、他の造形方式と比べて造形時間が長くなることもあります。ただし造形時間や樹脂の劣化に関しては、昨今の最新技術で驚きの進化を遂げています。詳しくは光造形の最新技術で説明します。
DLP方式の特徴
DLP方式(Digital Light Processing)は、UVをプロジェクターを使用して造形面を一度に照射して造形する方式です。SLA方式の一筆書きでのピンポイントレーザー照射と異なり、面照射で造形するため造形スピードが速い点が特長です。SLA方式と同様に液体樹脂をレーザーで固めるため微細再現が得意で、滑らかな表面の再現が可能です。また、吊り下げ式のDLP方式は全体がレジンに浸かる必要がなく、少ない材料で造形できる点も大きなメリットです。光造形のレジンは一度開封してしまうと劣化が進みやすい材料です。一度にセットする材料が少なく済むため、レジンの劣化を最小限にできます。また、少量のレジンで済むため、メンテナンスや材料交換がSLA方式に比べて容易に行えます。
ただし樹脂のサポート材で吊り下げるためワークサイズが小さく、大きなパーツには不向きです。空中にぶら下がりながら造形されるため、Z寸法を精度よく出したい場合には向かない場合もあります。このため、造形方向をどのように決めるかが、DLP方式では大変重要です。
下部よりプロジェクター投影されたLEDライトが一層ずつ硬化させていく、吊り下げ型の造形機。一回の投影で面全体を照射できるため、サポート材の有無や造形面積に関わらず一層あたりにかかる時間が短く、一定。
液体樹脂に上部からレーザーを当てて硬化。レーザーを用いるため、一層あたりの造形面積が大きいほど造形時間は長くなる。DLP方式より大きいサイズの製品を造形可能。
光造形方式の材料(レジン)- 透明だけが光造形ではない -
光造形はUV照射をして樹脂を硬化させる方式なので熱硬化性の樹脂を使用しますが、3Dプリンターの中で最も歴史のある造形方式のため、各メーカーの光造形材料は多種多様に増えています。一般的にはアクリル系やエポキシ系の材料が多く、エポキシ系で一般的な材料はABSライクやPPライクなどです。光造形は、透明の材料が使用できる点が大きな特長です。透明材料を使用できるので、光造形は可視化サンプルに用いられることが多くありますが、もちろんそれだけではありません。表面がきれい、かつ塗装性にも優れているため、展示用モックやデザインモックにも最適です。昨今は300度の熱に耐えられる耐熱性樹脂やUL94 V0規格の難燃性樹脂、耐候性樹脂など、スーパーエンプラに匹敵する材料が出てきています。
サポート材と後加工
光造形方式では、液体状レジンの中もしくは吊り下げ式の場合、空中にぶら下げながら造形をするため、同材料でのサポート材は必須です。3Dプリンターで造形を開始する前に造形方向とサポート材をつける位置を検討し、専用のソフトでモデリングします。
造形終了後、造形装置からサポート材のついた造形物を取り出して不要な樹脂を除去し、アルコールによる洗浄を行います。不要な材料を洗浄で落とし切った後、二次硬化処理を行います。
二次硬化終了後、ニッパーやカッターなどを使用して手作業でサポート材を除去します。
サポート材のカット後は小さな点々のような形で造形面に残りますので、その部分が意匠面や勘合・摺動などに影響がなければそのままでもよいのですが、平滑にしたい場合には磨きなどで落とす作業が必要となります。そのため造形前に造形方向とサポート材がつく位置を正確に把握しておくことが手戻りの抑制になり、余計なコストをかけずに済む近道です。意匠パーツを外注で造形依頼する場合は、どの面にサポート材がつくのかを事前に確認することをおすすめします。
光造形方式の3Dプリンターのメリット・デメリット
光造形方式にはSLA方式とDLP方式などの違いがありますが、光造形として共通のメリット・デメリットについて解説します。
光造形方式のメリット
3Dプリンターの中で最も古い造形方式にも関わらず、現在もなお新機種が発売され開発が進んでいるということは、光造形方式が他の造形方式にはとって変わることのできないメリットが多々あるからと言えます。ここでは光造形方式のメリットを紹介します。
高い再現性・意匠性
光造形のメリットは何といってもきれいな意匠性です。3Dプリンターというと熱溶解積層造形方式(FDM)の表面がざらざらした造形品を想像する方が多いのではないでしょうか。光造形は液体状のレジンを硬化するため、成形品の試作に最適な精度と意匠性があります。積層痕が目立たないので、後工程で磨きを入れずそのままでも十分きれいな造形パーツが作れます。意匠の再現性が高いことから、通常成形品に施すようなシボ加工を、データそのものにデザインすることで表現可能です。また黒色のパーツにクリア塗装をしただけで、まるで鏡面仕上げのように仕上げられるのも光造形ならではのメリットと言えるでしょう。
高い寸法精度
再現性が高いので、光造形は意匠のみならず寸法精度が必要なパーツにも適しています。積層ピッチ(解像度)を細かく設定すれば0.5㎜以下の微細な形状も表現できます。シボや鏡面、0.5㎜以下の微細表現があるパーツを金型で成形する場合、型のエッチング処理、鏡面手磨き、彫刻文字などの微細表現は放電加工(EDM)などを利用する必要があり、金型代だけで数百万円以上かかることがありますが、このようなパーツを金型を起こす前に試作する場合、光造形が最適な造形方法と言えます。
造形スピードの速さ・高い生産性
最近では造形スピードが速いSLA方式も誕生してきているため、ものにもよりますが造形スピードの速さもメリットです。吊り下げ式DLP方式は面を一気に照射するため、さらに早くなります。吊り下げ式DLP方式であるFigure 4の造形スピードの早さはこちらでご確認いただけます。
豊富な樹脂材料・素材
光造形の樹脂の開発が進んでおり、高耐熱性・ヒンジ特性・高耐靱性・難燃性などさまざまな特長を持つ樹脂が増えています。用途によっては量産品として使用できる耐候性樹脂もありますので、今後ますます最終製品への適用が期待できます。
光造形方式のデメリット
光造形は非常に優れた造形方式である一方で、多少のデメリットもあります。
サポート材が必須
液体レジンの中に造形品を作るため、造形品を支えるサポート材が、造形品本体と同じ材料で造形されます。そのためサポート材を除去する工程が必要で、サポート材を取り除いた後に点々の跡が残るというデメリットがあります。気になる部分であれば研磨して取り除くことはできますが、サポート材の除去も研磨も設置した位置によっては取り除けない場合がありますので、造形前に確認が必要です。
太陽光、紫外線に弱い
光造形はUVで樹脂を硬化させる造形方法のため、基本的に太陽光、紫外線に弱いというデメリットがあります。透明パーツが作れることはメリットですが、その透明なパーツも紫外線による経年劣化で黄色く濁ってしまうなどの注意点がありますので、使用後は紫外線のあたらない暗室での保管をおすすめします。
光造形の用途、よく使われるシーン
光造形のメリット・デメリットを理解すると適切な用途が見えてきます。たとえば成形品同等の意匠性が表現できるので、金型を起こす前の量産前試作、微細・精度が要求されるコネクタ部品の機能試験、積層が目立たず塗装性もあるため展示品としてのモック、デザインモック、フィギュア、アクセサリー、大型の一体造形ができるため、注型や鋳造のマスターなどにも使われます。また、透明を活かした可視化サンプルなどもよく使われます。
光造形の最新技術
光造形方式は3Dプリンターの造形方式の中で最も古い造形方式で、製品化されてから30年以上が経過した今でも各メーカーが開発を進め、日々進化しています。その理由としては、3D Systems社の特許の有効期限が切れ、他社が参入できるようになったことが大きいのですが、それだけではなく光造形のメリットである意匠性や微細形状の再現性が他の造形方式では達成できない光造形ならではのメリットが大きいからと言えます。
そしてデメリットであった造形スピードは、DLP方式やレーザーを複数搭載できるSLA方式の機器の登場により改善されています。光造形のもう1つのデメリットである紫外線などによる造形品の劣化についても、最近では耐候性の高い樹脂が製品化されています。光造形の材料の進化は耐候性にとどまらず、難燃性や耐熱性など量産品に求められる高い物性を持つ材料が登場し始めているため、最終製品への適用など今後ますます幅広い用途への活用が期待されます。
光造形の可能性 ~試作から最終製品、製造ラインへ~
光造形機や光造形材料はこの30年間で日々進化を遂げてきましたが、実はそれだけでは試作などの限定的な用途にとどまります。光造形の適用範囲を最終製品や製造ラインへと広げるためには、生産管理・工程管理が一元的に管理できるソフトとFAロボットが作業しやすい物理的な設計・構造が必要です。すでにこれらも製品化されており、海外では量産工場に光造形機が採用されているケースも珍しくありません。日本でも今後は広がりを見せると思われます。
よくある質問
おすすめの光造形機はありますか。
用途によって多種多様ですので一概には言えませんが、製作したいものと用途をお伝えいただければ、適切な材料、サイズ、用途、生産性などを考慮してご提案します。SOLIZEは日本国内で30年以上の造形受託と装置の販売の実績がありますので、まずはお問い合わせください。
光造形による3Dプリントの注意事項を教えてください。
まずはサポート材がどこにつくかを確認した方がよいでしょう。意匠面にサポート材がついてしまうと期待していた外観にならないことがあります。また、薄肉や平板形状、開口形状でリブなどの補強がない場合、反りや変形が起こることもあります。厚肉になるほど巣と呼ばれる気泡(ボイド)が発生し、透明なパーツの場合それが見えてしまうので、厚肉の場合その点を事前に許容しておく必要があります。
光造形の納期は通常どのくらいでしょうか。
パーツ点数や大きさなどによりさまざまですが、SOLIZEの場合は約3営業日から10営業日ほどです。お急ぎの場合はご相談ください。